原状回復工事は誰が行う?貸主・借主の費用負担と手配の違いを解説

原状回復工事は誰が行う?貸主・借主の費用負担と手配の違いを解説

賃貸物件の退去時に行われる原状回復工事は、「費用を誰が負担するか」と「工事を誰が手配するか」を分けて考えることが大切です。居住用物件では、通常損耗や経年劣化は貸主負担、借主の故意・過失による損耗は借主負担となるのが基本です。一方、店舗・オフィスでは、契約で定められた範囲について借主が費用を負担するケースが多く、工事業者の選定も契約や工事区分によって変わります。

まず確認すべきなのは、賃貸借契約書、原状回復特約、工事区分表、退去時の返還条件です。この記事では、原状回復工事を行うのは貸主なのか借主なのかを、居住用・店舗・オフィス・居抜き物件の場合に分けて解説します。

原状回復工事は誰が行う?

原状回復工事は、物件の種類、契約内容、損耗の原因、工事区分によって判断します。大まかな考え方は次のとおりです。

物件の種類費用負担の基本工事の手配最初に確認するもの
居住用物件通常損耗は貸主、故意・過失は借主貸主・管理会社が手配することが多い賃貸借契約書、原状回復特約、退去立会い記録
店舗・オフィス契約で定めた範囲を借主が負担することが多い貸主指定または借主手配。工事区分による契約書、仕様書、工事区分表、返還条件
居抜き物件造作や設備の引継ぎ条件による貸主・前テナント・借主の合意内容による居抜き契約、造作譲渡契約、貸主承諾書

居住用物件(マンション・アパートなど)の場合

居住用物件の場合、原状回復工事の費用負担は、通常損耗(普通に住んでいて生じる傷み)や経年劣化を貸主が負担し、借主の故意・過失による損耗を借主が負担するのが基本です。工事の手配は貸主や管理会社が行うことが多いものの、契約内容によって異なります。

この考え方は、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも示されています。また、民法621条では、通常の使用による損耗や経年変化は、賃借人の原状回復義務の対象から除かれる考え方が定められています。条文を確認したい場合は、e-Gov法令検索の民法も参考になります。

具体的な例としては、次のように整理できます。

貸主負担になりやすい例借主負担になりやすい例
日焼けによるクロスの変色タバコのヤニによるクロスの黄ばみや臭い
家具の設置による床の軽いへこみペットによる柱や床の傷
通常使用による畳の変色飲み物をこぼしたまま放置したことによるシミ

ポイント:どこまでが通常損耗で、どこからが借主負担になるかは、写真、退去立会い記録、契約書の特約によって判断が分かれることがあります。入居時・退去時の状態を写真で残し、請求内容に疑問がある場合は見積書の内訳を確認しましょう。

店舗・オフィス物件の場合

店舗やオフィスでは、契約で定められた範囲について、借主(テナント)が原状回復工事の費用を負担するケースが多くあります。ただし、すべての工事が一律に借主負担になるわけではありません。貸主側の設備、共用部分、建物全体に関わる工事、契約で除外されている範囲などは、別の扱いになる場合があります。

工事業者についても、借主が自由に選べるとは限りません。特にB工事のように建物設備やビル全体に影響する工事では、貸主指定の業者で施工するよう求められることがあります。一方、C工事にあたる内装工事などでは、貸主の承諾を得たうえで借主が業者を選べるケースもあります。

店舗・オフィスでは、契約内容によってスケルトン返し(内装や設備を撤去し、構造体に近い状態へ戻す返還方法)が必要になることもあります。退去前に、契約書、原状回復仕様書、工事区分表を確認し、どこまでの撤去・復旧が必要かを管理会社や貸主に確認しておきましょう。

A工事・B工事・C工事の区分

店舗・オフィスの原状回復では、A工事・B工事・C工事という工事区分を理解しておくと、費用負担と業者選定の関係を整理しやすくなります。

工事区分主な内容費用負担業者選定
A工事建物の共用部分や基本設備など、貸主側の資産に関わる工事貸主貸主指定
B工事テナント専有部分に関わるが、建物設備やビル全体に影響する工事借主貸主指定になりやすい
C工事テナント専有部分の内装・什器・軽微な設備工事借主借主選定が可能な場合がある

B工事は、費用を借主が負担する一方で、業者は貸主側が指定することがあります。そのため、見積もりの比較がしにくく、費用が高く感じられるケースもあります。契約前または退去前に、B工事の範囲、見積もりの内訳、相見積もりの可否を確認しておくと安心です。

居抜き物件の場合

居抜き物件とは、前のテナントが使用していた内装や設備などを引き継いで使用する物件のことです。居抜きで入居した場合でも、退去時の原状回復が必ず不要になるとは限りません。

たとえば、貸主が造作や設備の残置を認めている場合、次のテナントへ引き継ぐ場合、または契約で原状回復義務が一部免除されている場合は、工事範囲が軽くなることがあります。一方で、契約上は「スケルトン返し」と定められている場合や、引き継いだ設備の撤去義務が借主に残っている場合は、原状回復工事が必要です。

居抜き物件では、賃貸借契約書だけでなく、造作譲渡契約書、貸主の承諾書、残置物リストを確認しましょう。特に「誰の所有物として扱うのか」「退去時に撤去するのか」「次のテナントへ承継できるのか」は、事前に書面で確認しておくことが重要です。

原状回復を依頼する業者選びの注意点

原状回復工事を業者に依頼する際は、費用だけでなく、契約上その業者を使えるかどうかも確認する必要があります。

  • 指定業者の有無を確認する:店舗・オフィスでは、B工事や建物設備に関わる工事で貸主指定業者が求められることがあります。契約書や工事区分表を確認しましょう。
  • 相見積もりの可否を確認する:指定業者がない場合は、複数の業者から見積もりを取り、工事内容と金額を比較すると判断しやすくなります。
  • 見積書の内訳を確認する:「一式」だけでなく、撤去、補修、清掃、廃材処分、諸経費などの内訳が分かる見積書を依頼しましょう。
  • 実績と対応範囲を確認する:居住用、店舗、オフィス、スケルトン工事では必要な知識や対応範囲が異なります。似た物件での施工実績を確認しておくと安心です。

契約書確認の重要性

原状回復に関するトラブルを避けるには、退去時だけでなく、契約時から条件を確認しておくことが重要です。特に次の点を見ておきましょう。

  • 原状回復の範囲:どこまでを元に戻す必要があるのか、具体的に定められているか確認します。
  • 通常損耗・経年劣化の扱い:居住用物件では、通常損耗や経年劣化まで借主負担とされていないか確認しましょう。
  • 特約事項:ハウスクリーニング費用、鍵交換費用、クロス張替え費用などの特約がある場合は、金額や範囲が明確か確認します。
  • 店舗・オフィスの返還条件:スケルトン返し、造作撤去、設備撤去、看板撤去、B工事の範囲などを確認します。
  • 入居時・退去時の記録:傷や汚れの状態は、写真や動画で残しておくと、後日の請求内容を確認しやすくなります。

原状回復に関するQ&A

Q. 原状回復費用が高額になった場合、分割払いは可能ですか?

A. 貸主や管理会社との交渉次第です。分割払いが認められるケースもありますが、まずは見積書の内訳を確認し、通常損耗や経年劣化まで含まれていないかを確認しましょう。

Q. 退去時に立会いを行わなかった場合、原状回復費用はどうなりますか?

A. 立会いを行わなかった場合でも、契約に基づく原状回復義務がなくなるわけではありません。後日請求される可能性があるため、退去前後の写真を残し、請求が届いた場合は工事内容と根拠を確認しましょう。

Q. 店舗やオフィスでは指定業者しか使えませんか?

A. 工事区分によって異なります。B工事のように建物設備に関わる工事では貸主指定業者になることがありますが、C工事にあたる内装工事では、貸主の承諾を得たうえで借主が業者を選べる場合もあります。

Q. 居抜き物件なら退去時の原状回復は不要ですか?

A. 不要とは限りません。居抜きで入居しても、契約でスケルトン返しや設備撤去が定められていれば、退去時に工事が必要になることがあります。造作譲渡契約や貸主の承諾内容を確認しましょう。

Q. 原状回復費用に納得できない場合はどこに相談できますか?

A. まずは管理会社や貸主に見積書の内訳と請求根拠を確認しましょう。それでも納得できない場合、居住用物件の退去トラブルでは、消費者ホットライン188や、国民生活センターの賃貸住宅の原状回復トラブル情報を参考に相談先を確認できます。

まとめ

原状回復工事は、貸主と借主のどちらが行うかを一言で決められるものではありません。居住用物件では、通常損耗や経年劣化は貸主負担、借主の故意・過失による損耗は借主負担となるのが基本です。工事の手配は貸主や管理会社が行うことが多いものの、契約内容によって変わります。

店舗・オフィスでは、契約で定められた範囲について借主が費用を負担するケースが多く、B工事や建物設備に関わる工事では貸主指定業者が求められることがあります。居抜き物件でも、契約内容によっては原状回復工事が必要です。

退去トラブルを防ぐには、契約書、特約、工事区分表、見積書の内訳を確認し、必要に応じて管理会社や貸主へ早めに相談することが大切です。請求内容に納得できない場合は、写真や契約書を手元に用意し、公的な相談窓口も活用しましょう。

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